なぜ脱皮するのか?もし失敗すると・・・
脱皮とは文字通り、皮を脱ぐことです。節足動物や爬虫類、両生類などが成長するときに見られる現象で、ダンゴムシも脱皮を繰り返して大きくなります。ダンゴムシの脱皮のメカニズムや理由、脱皮の方法、そして失敗するとどうなるかなどを紹介しています。なお脱皮の写真・画像は「ダンゴムシの脱皮・脱皮中の画像まとめ」にあるのでよかったら見てください。
なぜ脱皮するの?
わたしたち人間やその他の哺乳類のからだは内部に硬い骨があり、表面はやわらかい皮膚で覆われていますが、ダンゴムシを含む甲殻類や昆虫類はその逆で、内部にやわらかい臓器や体液を備え、外部はクチクラ層という硬い層で覆われています。
そのため、ダンゴムシなどがからだを大きくするためにはこの硬い殻をどうにかする必要があるのです。硬いままじゃ大きくなれないから、内側にひと回り大きい殻(最初はやわらかい)を作って、古い殻は脱ぎ捨ててしまおう(あとで食べますが)というのが脱皮です。
かんたんなメカニズム
えさを食べてからだ(内側の組織など)が成長して殻がきつくなると「脱皮しよう」というホルモンが分泌されます。これを機にあらゆる物質が反応し合うと、結果的に殻の内側に新しい殻がつくられ、外側の殻が剥がれて最終的には脱皮に至ります。
人間でいうと、皮膚の深層部に新しい皮膚が誕生し、その皮膚が徐々に表面に浮かんできて、古い皮膚は脱いだり剥がれ落ちたりするような感じです。
下半身を脱いでから上半身を脱ぐ
ダンゴムシをはじめ、ワラジムシ、フナムシ、オオグソクムシなどのワラジムシ目のほとんどの生き物は、脱皮を2段階で行います。まず下半身の殻を脱ぎ、しばらく(数時間から数日後)してから上半身の殻を脱ぎます。これで1回の脱皮となります。
2回に分ける理由はダンゴムシに聞かないとはっきりしませんが、現在いくつかの説が考えられています。
- 脱皮中や脱皮直後はうまく動けないので外敵対策として
- 脱皮はエネルギー消費が激しいので負担を分散している
- 一度に全部脱ぐよりも簡単
最初の説はマニキュアを片方ずつ、乾くまで時間を置いて塗るのと似ています。両方いっぺんに塗ってしまうと身動きが取れませんよね。隠れ家を持ち上げたとき、脱皮中のダンゴムシが脱いでいる途中なのに逃げていたのを目撃したことがあるので納得の説です。最後の説は全身タイツよりズボンと上着を分けて脱いだ方が簡単だということでしょう。簡単だということは脱皮の失敗によって弱ったり死んでしまう可能性が低くなるということです。
脱皮した殻を食べる
脱皮後の殻は貴重な栄養源なので、ダンゴムシはその殻をよく食べます。他のダンゴムシが脱いだ殻もおかまいなしでよく食べます。もちろん栄養補給のためだと考えられます。セミなどは抜け殻を食べませんが、ザリガニやアゲハの幼虫などは脱皮の抜け殻を食べることがあるようです。
脱皮の失敗
このように、甲殻類などの脱皮動物は成長するために脱皮をしますが、これは実は非常に危険な仕事でもあります。しかもやっかいなことに、生まれてから間もなく定期的に始まるのですから大変です。人間が毎日古い角質をポロポロするのとはわけが違うのです。
脱皮は命がけ
多大なエネルギーと、外敵に狙われるリスクを背負って挑む命がけの大仕事。それが脱皮なのです。ですから、脱皮に失敗するのはそれほど珍しいことではないのです。
上半身でも下半身でも失敗する
等脚類であるダンゴムシの場合、上半身と下半身の2段階で脱皮するわけですが、どちらでも失敗することはあります。失敗すると古い殻が脱げないままの状態になり、脚や触角などはそのせいでほとんど機能しなくなってしまいます。
下半身の脱皮に失敗した場合
下半身の脱皮に失敗した場合、前脚でしか歩くことができなくなり下半身を引きずりながら移動することになるので見た目は人間の感覚からするとかなり不憫です。えさを食べることはできますがおそらく排泄機能は失われ長生きは難しいと考えられます。
上半身の脱皮に失敗した場合
上半身の脱皮に失敗した場合は、後ろ脚でしか動けないうえに触角や目も機能しないため、もはや正常に移動することができません。すぐにバランスを崩して転覆してしまったり、そもそもえさを食べることができない場合が多く近いうちに力尽きてしまうことになります。
このように、脱皮の失敗はほとんどが死に直結してしまうので、できることなら脱皮は成功させたいものです。
脱皮失敗の原因と対策
脱皮の失敗原因はいくつか考えられますが、特に飼育下での脱皮の失敗原因について考えてみたいと思います。
飼育下での脱皮失敗の原因
飼育下で脱皮の失敗が多発する場合は、次に挙げる原因が考えられます。
- 栄養(えさ)のバランスが悪い
- 温度・湿度などの環境要因
- 脱皮中に共食いにあってしまう
えさが原因のケース
まず、えさが偏っていて脱皮に必要な栄養物質が充分に摂取できていないために失敗に至るといった可能性があるかもしれません。
対策は複数種類のさまざまなえさを与えるということです。少し面倒臭いですが栄養面に原因があると疑われる場合には試してみましょう。「ダンゴムシの食べ物。定番のえさとランキングとおすすめ」が参考になるかもしれません。
環境要因が原因のケース
つぎに、飼育下の環境が原因になって脱皮の失敗に至るケースもあると思います。この場合は具体的な原因を追求するのは難しいでしょう。湿気や温度は適当か、日照サイクルや土などに異常はないかなどの基本的なポイントを再確認することが対策になります。
共食いが原因のケース
最後は、推測ですが脱皮の最中に共食いにあってしまい失敗となるケースです。脱皮中や脱皮直後に抜け殻と一緒にまだ柔らかい部分も食べられてしまうといったもので、脱皮失敗というよりはその場で力尽きてしまいます。
対策としては飼育数を減らすかケースを拡大することです。また、補助的な対策ですが脱皮中の個体を見つけたら隔離してしまうのも効果的かもしれません。
脱皮を失敗してしまったダンゴムシ
ここからは、飼育下で実際に脱皮に失敗してしまったダンゴムシの記録を紹介します。
頭の写真
脱皮の途中かと思ったのですが、どうやら失敗してしまったみたいでいつまで経っても脱げない様子でした。
見た目は透明で綺麗ですが、通常の脱皮の場合だと脱ぐ直前には既に白っぽいことが多いと思うので、このダンゴムシの脱皮は少し異常だということがわからないでもありません。
脚の先に毛のようなものが見えますが、毛までも綺麗に脱皮するようです。
裏側の写真
中央の黒い部分は口です。この写真を見る限り、新しい脚や触角は途中までは脱げていそうです。
ちょっと取ってみました
少し悪いとも思ったのですが、針のような道具で脱げそこねた殻を取ってみました。写真は頭部の殻です。引っ掛けたらポロッと取れました。
触角が出てきた!!
触角ごと取れたかとヒヤヒヤしましたが、どうやら無事だったようです。触角はなんとか脱げていたようです。でも少し形がいびつです。
取れるだけ取ってみました
ほかの殻も取れるところは取ってみました。パリパリ、メリメリと、お祭りの型抜きのような、かさぶたを剥がすような、なんだかくせになりそうな作業でした。
かなりいびつですが、原型は留めているので脱皮失敗の中では成功に近いかもしれません。縮まってしまっている脚はうまく機能しないかもしれませんが、触角はなんとか使えそうな雰囲気です。
こんな姿に・・・
少しシワシワしていて、下半身よりひと回り小さいです。通常の脱皮であれば柔らかいうちにすべて脱げるので、シワシワでも徐々に広がっていくのでしょうが、脱皮に失敗すると硬い殻が邪魔で大きくなれずにシワシワのままのようです。
なんとか触角はくるくるしていたので、たぶん機能しているみたいです。口もパクパクしていたので、もしかしたら食べることができるかもしれません。
脱皮に失敗したこのダンゴムシはその後、元気な様子でえさも食べていましたが、およそ半月後に残念ながら力尽きてしまいました。。。